富山の海や食の豊かさを、次の世代に伝える《鈴香食品》の想いとは
富山県内でも有数の漁港である新湊漁港のある富山県射水市で、昆布巻きやビスクスープなどの海産物加工一筋に歩む《有限会社 鈴香食品》。
創業は1984年。富山や北陸の食の伝統を受け継ぎながら、現代の食卓に寄りそった新しいおいしさを提案しています。
大雪のなか迎えてくださったのは、専務取締役の阿原研也さん。
現在は鈴香食品の2代目として、富山の自然が育む豊かな「水」と鮮度抜群の「魚」を最大限に活かしたものづくりに挑んでいます。その熱い想いを伺いました。

4,000メートルの高低差が育む、富山の「サカナ」
——すごい雪ですが、早朝から除雪されていたそうですね。
富山では日常ですよ(笑)。でも、この雪こそが富山の恵みなんです。
3,000m級の立山連峰から、水深1,000m以上の富山湾まで、わずか30kmほどの距離で4,000mの高低差があります。その地形のおかげで、ミネラル分の豊富な山からの雪解け水がすぐに富山湾へ流れ込み、プランクトンを育てるので、多種多様な魚が集まります。
海底からも水が湧き出ていて、「天然のいけす」と呼ばれる最高の環境をつくりだしているんです。
しかも、富山発祥の越中式定置網漁(※)は魚を傷つけることがあまりなく、港から陸までの輸送距離も近い。きちんと温度管理された鮮度抜群の魚が届くわけなんです。
※海に固定された網の中へ魚群が入るのを待つ漁法。富山湾では約400年の歴史をもつ。魚を根こそぎ獲らず、サステナブルな漁法とも言われる。
——まさに自然の装置ですね。「水」の良さが、魚のおいしさと直結しているのでしょうか?
その通りです。魚のおいしさは、「処理のスピード」と「使う水の量と質」で決まります。ここに工場を建てたのは、浜から近く、伏流水(川の下や地中を流れる水。自然による浄化作用のおかげで水質が良い)が豊富な場所だから。すべての工程でたっぷりと、年間を通していい水を使えることがとても大切なんです。
↑ 直接、工場内もご案内いただきました
港から最速ルート。「浜から直買い」で魚が届く
——仕入れには、さらに秘密があるとか?
当社では「市場に並んだ魚」を買うのではなく、浜から直接買い付ける「直買いの魚」が半分以上を占めます。例えばホタルイカも船からタンクに移してそのまま運んでもらうという、まさに「最速ルート」です。
——仲介を通さないんですね!
ホタルイカは刺身用の最高の品を、獲れた当日しかボイルしません。そうしないとあっという間に鮮度が落ちますから、うちの商品にはならないんです。
氷見のブリも水揚げ直後の温度管理が命です。低温で一気に締めないと、身が赤くなって味が落ちてしまう。白えびもイカも、最初はピンク色や飴色で、それが透明に変わって、時間が経つと白色になっていくんですよ。
——元々はピンク色をしているんですか!
そうですね。このスピード感と鮮度へのこだわりは、漁師さんや仲買さんとの長年の信頼関係があってこそ成立するものでもあります。
↑ 貴重な氷見のブリが加工を待っていました!
自分の子どもに、自信を持って食べさせられるものを
—— 商品の裏面の原材料を見ると、とてもシンプルですね。
子どもや親に食べさせたいものを作ることが、僕らの原点ですから。
保存や効率のために添加物を使うのは簡単ですが、それでは誰のために何を作っているのかわからなくなってしまう。
伝統的なものと現代の考え方をミックスして、例えば粘度を出すために米粉を入れたり、リンゴ酢や自然の材料で風味を整えたりという工夫をしています。
—— はちみつや水飴など、聞き慣れた言葉しか書かれてないと安心しますね。
社員も自分たちが「食べたい」と思えないものを作っていては、やりがいも持続性もありません。
例えば創業時からつくっている、のりの佃煮は、生のりを使用し、海洋深層水と富山湾のカタクチイワシの出汁で炊き上げています。余計な塩分を足さなくても、出汁の旨みと香りで満足できる。そんな「本物の味」を追求しています。
↑ 生のりの検品では、一つひとつ丁寧にオキアミなどを取り除く。
旨みを凝縮した「キトキトキッチン」のラインナップ
—— 今回dōzoで取り扱う「ビスクスープ」や「天然ブリのコンフィ」などには、どんなこだわりがあるのでしょうか。
これらは、魚を余すことなく使い切る「知恵」から生まれたんです。
例えば甘エビですが、昆布〆用の身を取ったあとの頭には、濃厚な旨みや味噌が詰まっています。魚の漁獲量も減っていますから、これを廃棄せず、丸ごとすり潰してビスクスープに仕上げました。
コンフィに使う天然ブリは、氷見など水揚げされる浜と、どの網で引き上げられたのかまで出来る限り把握できる状態にしています。特に氷見のブリは温度管理のレベルがものすごく高いんですよ。
—— どこの網であがったかまでわかっているんですね! とてもリッチな商品ですし、ビスクスープはまさにSDGsですね。この「キトキトキッチン」というブランド名にはどんな思いが?
「きときと」は富山弁で新鮮という意味です。私たちのキッチン(工場)から新鮮な驚きを届けたいという思いを込めました。
伝統的な保存食の技をベースにしながら、現代の洋風な食卓にも馴染む、新しい富山の味を提案したかったんです。
購入された方からおいしかったとお手紙をいただいたり、お問い合わせをいただくことも多く、そんなときは本当にうれしいものです。レシピを参考に、ぜひ、いろいろな料理で楽しんでみてください。
—— 阿原さんの視線の先には、これからの富山の食文化が広がっているのですね。
大切な食を支える一次産業をすたれさせないためにも、地元の加工メーカーが一所懸命いいものをつくっていく。そうすれば、漁業などに携わる人も、「うちの息子にバトンタッチさせるよ」となるのではないかと。
見えないところこそ、ちゃんとしていないといけないと、最近特に思いますね。それが一つずつ欠けていくと、おいしいものができなくなってしまうのではないかと思います。

—— 伝統工芸に携わる皆さんとも仲がいいそうですね。
僕はものづくりで知られる高岡市出身で、銅器や漆器づくりに携わる高岡伝統産業青年会の元メンバーや、地元のかまぼこ作りに携わる人など、同世代の仲間がたくさんいます。
皆それぞれに伝統産業をどうやって次の世代に伝えていくかを考えていて、遊びも仕事も真剣。伝統をいかにいまの生活に浸透させるか。食と合わせたさまざまな新しい提案が必要だとも思います。
今後は、彼らとも連携しながら、富山や北陸の食卓の豊かさを全国に、そして次世代に伝えていけたらと。いま実際、そういう熱いものが生まれていて、富山って面白いんだよということがもっと伝わり、広がっていけばいいなと考えています。
—— 富山の「水」と「魚」と、次世代への想いが詰まったお話をありがとうございました。
Text :タダカツ
Photo:田川紘輝
Edit:dōzo編集部